完全置換型人工心臓とは?仕組みや課題を解説
医療と看護を知りたい
すみません、完全置換型人工心臓とは何ですか?
医療の研究家
患者さんの心臓の代わりに血液循環を担う人工ポンプ装置だよ。心臓を完全に取り除いて、元の位置に設置するんだ。
医療と看護を知りたい
TAHって略されることもあるんですね。どんな目的で使われているんですか?
医療の研究家
以前は心臓移植までのつなぎ役として使われていたけど、最近は最終的な在宅治療にも使われ始めているんだ。
完全置換型人工心臓とは。
「完全置換型人工心臓」とは、患者の心臓に代わって全身の血液を循環させるポンプ装置のことです。英語では「total artificial heart」と呼ばれ、頭文字を取って「TAH」と表記されることが多いです。
TAHは1982年から臨床で使用されており、心臓移植までの間、心臓機能を代用する目的で使用されてきました。現在では欧米において、末期心不全患者の心臓移植までのつなぎとして主に用いられていますが、近年では移植を目的とせず、在宅治療を目的としたTAHの導入も始まっています。
日本国内では、2017年6月現在、TAHは使用されていません。日本では、心臓機能を一部補助する補助人工心臓を装着して心臓移植を待つ方法が行われています。
ただし、TAHには問題点もあります。血液ポンプやバッテリーが体内に埋め込まれるため、次のような問題が生じることがあります。
* 電池交換や血液ポンプの調整が容易でない
* TAHの不調が生じた場合、手術による交換が必要となり、患者の負担が大きい
TAHには、外側にモーターや制御装置を装着する補助人工心臓よりも厳しい安全基準が求められています。
* TAHの材料が長期間体内に入れても人体に影響がないか
* 体内で故障しないか
* 体内で腐食しないか
* 血栓が長期にわたって発生しないか
* 小型化・軽量化により、体に負担がかからないか
完全置換型人工心臓の仕組み
完全置換型人工心臓の仕組みとは、心臓のポンプ機能を完全に置き換える医療機器です。従来の補助人工心臓とは異なり、患者の本来の心臓を切除して植え込みます。人工心臓は通常、2つのポンプで構成されており、それぞれが右心室と左心室の機能を担います。ポンプには、血液を心臓から全身に送り出すための回転翼が内蔵されています。また、センサーが血圧や心拍数を監視し、ポンプの速度や出力を調整して自然に近い循環を実現します。
完全置換型人工心臓の臨床使用の歴史
完全置換型人工心臓の臨床使用の歴史を紐解くと、1982年、米国ユタ大学でロバート・ジャービック氏が世界初の完全置換型人工心臓「Jarvik-7」を装着した患者を術後620日間生存させることに成功し、大きな注目を集めました。その後、1990年代初頭に、米国やドイツで臨床試験が進められ、一定の成功を収めました。しかし、機械的故障、血栓形成、感染症などの課題が明らかとなり、長期生存率は限られていました。
2000年代以降、技術の進歩により、人工心臓の耐久性と生体適合性が向上しました。2011年に米国で承認されたSyncardia TAH(人工心臓)は、それまでの機種に比べて長期生存率を大幅に向上させ、2年以上生存する患者も現れました。近年では、より小型で機能的な人工心臓も開発されており、患者のQOL(生活の質)を向上させ、完全置換型人工心臓の臨床使用がさらに普及することが期待されています。
完全置換型人工心臓の問題点
-完全置換型人工心臓の問題点-
完全置換型人工心臓にもかかわらず、その使用には課題が残っています。血栓症のリスクは、血液が人工心臓の表面と接触するために高くなる可能性があります。また、感染症のリスクも懸念されており、細菌が人工心臓に入りこんで感染を引き起こす可能性があります。さらに、出血の増加も問題となり、人工心臓では凝固を遅らせる抗凝固薬の使用が必要となるため、出血が止まりにくくなる可能性があります。長期的な観点では、人工心臓の耐久性が問題となり、時間が経つにつれて劣化して交換が必要になる可能性があります。
完全置換型人工心臓の安全基準
完全置換型人工心臓の安全基準は、患者の安全と有効性を確保するために不可欠です。これらの基準は、設計、製造、テスト、そして移植に関する包括的な要件を確立しています。例えば、人工心臓は十分な耐久性と信頼性を備えており、長期的な使用でも耐えられる必要があります。また、感染や血栓などの合併症のリスクを最小限に抑える必要があります。さらに、人工心臓の安全性は、市販前後の臨床試験によって継続的に評価されています。これらの基準は、患者に安全で効果的な治療法を提供する上で重要な役割を果たし、完全置換型人工心臓の開発と使用における信頼性を確保しています。
日本で使用されていない理由
日本で使用されていない理由
日本では、完全置換型人工心臓はまだ承認されていません。その主な理由は、保険適用の問題と、長期的な安全性に関する懸念です。完全置換型人工心臓は非常に高価で、健康保険が適用されないため、多くの患者にとって現実的な選択肢ではありません。さらに、長期的に使用した場合の耐久性や感染症のリスクなど、安全性に関する懸念があります。これらの問題が解決されるまでは、日本では完全置換型人工心臓が使用され続ける可能性は低いでしょう。